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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章  2歳児に惚れた男?



「ふにゃぁあああああっ!?」



相模湾と東京湾に挟まれた御手洗(みたらい)家の一日は、そんな絶叫で幕を開けた。

とはいえ、2歳の幼女の絶叫なんて、子猫の雄叫び並みの威力しか無く。

「……う、ん……? あ~、起きたか~?」

ベッドから飛び起きたココの隣。

白いシーツに横たわったままの龍一郎は「ふわわ」と大きな欠伸を一つ零すと、

長い腕を伸ばし、明るい栗色の頭をナデナデしてくる。

「にゃっ にゃんで……っ!?」

(何でおぬしが、同じベッドにいるんじゃ~~ワレ~~っ!?)

薄い羽毛布団を小さな手で握り締めながら、焦って問うココに、

「おはよう、ココ~。寝起きの顔も、可愛いなあ~」

全然返事になっていない朝の挨拶を寄越した男は、あろうことか幼女の身体を抱き寄せ、

真っ白なおでこに、ちゅ~~と唇を押し当てた。

「ふ……っ!? ふぎゃぁあああああっ!!」

また悲鳴を上げたココを窘めたのは、

「朝も早よから、賑やかでございますねえ」

若干呆れ声で寝室へと足を踏み入れてきた、この屋敷の家宰・サトちゃんだった。

「お~、おはよ~。風呂沸いてるよね?」

「もちろんでございます」

ちっこい身体を小脇に抱えた龍一郎は、ベッドから降りると長い脚で寝室を後にする。

「さ~、俺と一緒に朝風呂、入ろうね~」

「ふえっ!?」

「昨夜、ココ お風呂入らず寝ちゃったから、ばっちいばっちい でしょ~?」

龍一郎の言葉に、ようやくココは自分の置かれた状況を把握する。



てか、このTシャツは何だ?

誰のだっ?

いつ着替えたんだ?

全く記憶、無いんですけどぉ~~っ!!



昨夜、この屋敷にヘリで連れて来られ、ディナーを頂いた後からの記憶が途切れていた。

つまり自分は、先程まで疲労困憊で眠ってしまっていたらしい。

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