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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章 2歳児に惚れた男?
何となく「そうだろうな」と思ってはいたが。
そう言葉にして言われると、まるで自分が大洋に浮かぶヤシの実の様に、心許無い存在と成り果てた気がして。
色素の薄い眉をハの字にし、小さな肩をしょぼんと落としたココ。
しかし、そんな幼女に掛けられた言葉は、予想の遥か斜め上を行っていた。
「ですが、それは “昨夜までのココ様” です。今の貴女は、私・山田 悟(さとる)の養女――つまり娘ですから」
(てか、サトちゃんってば、 山田 悟 = サトちゃん だったのか……。って、そ、そうじゃなくってっ!)
「……は? ヨ、ヨウジョ…………?」
本来突っ込むべき単語を桃色の唇で発したココに、サトちゃん 改め 山田が表情を改める。
「ああ “養女” という言葉は解りますか? 血の繋がりは無くとも、親子関係を法的に結んだ関係性で――」
(知ってる、それは知ってるっての!)
小さな頭で ぶんぶん首肯するココ。
「まあ要するに、今日からサトちゃんが “ココのパパ” ってこと」
そう端的に付け加えてきた龍一郎に、ココは思わずその呼び名を口にした。
「……パパ……」
てことは、あれかい。
私は本日から 山田 ココ ってかい。
猫に似た丸っこい双眸が、己の養父となった男を仰ぎ見る。
年の頃は30。
すらっとした178cmの体躯は、背筋がピンと伸び、それよりも大きく見える。
すっと通った鼻梁にスッキリとした涼しげな顔立ち、清潔感溢れる身なりと、すました表情。
ただ、黒縁眼鏡の奥の神経質そうな瞳は、正直 何を考えてるのか全然解からなくて、ちょっとミステリアス。
というか、正体不明でなんか怖い。
(こ、この人が、自分の養父……)
昨夜会ったばかりの男を前に、肯定も否定も出来ず途方に暮れるココに対し、
「私の好みといたしましては、「パパ」よりは「父」と呼ばれたいですがね」
そんな、どうでもいい指摘をしてくる山田。