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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章 2歳児に惚れた男?
「そういえばココ、誕生日いつだ?」
ココを抱っこした龍一郎が、ダイニングへと続く道程を辿りながら尋ねて来るが、
「……た、たぶん……8がちゅ半ば?」
そう答えた幼女の瞳は、何故か右往左往していた。
(な、何だ、なんなんだっ!? この屋敷は……?)
ロの字型の屋敷の一角、1階から2階をぶち抜いて造られた、ガラス張りの温室とサンルーム。
2階・左側に位置する居住空間から、1階・右側に面するダイニングルームに行くには、この南国植物に溢れ返る小道を通って行くらしい。
「8月? じゃあ1ヶ月後じゃん。もうすぐ3歳か~」
たわわに実るバナナの樹に釘付けだったココの視界に、ずいっと強引に割り込んで来た龍一郎。
「あ、うん……」
「ココ様。もしや ご自分のお誕生日、お知りでは無いのですか?」
2人を先導していた山田が、振り返り問うてきた言葉に、ココは小さな頭をこくりと頷ずかせる。
産まれたばっかの頃って流石の私も、本当に自分では何も出来なくて……。
母親の気を引いて世話して貰うので、精一杯だったんだよな……。
出生後。
ようやく落ち着いた頃、つけっ放しのテレビから漏れ聞こえてきたのが、8月末の日付で。
ココはそれで、自分が夏に生まれた子供だと知った。
それに、母は育児には ほぼ無関心であった為、もちろん誕生日のお祝い等も無く。
「では、ココ様のお誕生日は、8月19日にされては如何でしょう?」
「19日? そりゃまた何でさ? サトちゃん」
胸の中の小さな栗色の頭に、こつりと顎を乗せた龍一郎が不思議そうに尋ねれば、山田の返答は意外なものだった。
「ココ・シャネルの誕生日が、8月19日ですので」
「へ~。それいいな、そうしよう。ココもいいな?」
「あい」
異論など、ある筈も無い。
ココ自身はシャネルなんて縁遠く、全く興味も無いが。
偉人さんと同じ誕生日とは光栄過ぎて、このちっこい身には余りある。