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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章 2歳児に惚れた男?
秀でた額と、1mmの狂いも許さぬ角刈り。
深く刻まれた眉間の皺、その下の三白眼。
どっしりした鼻の下、ヘの字口からは、期待を裏切らぬドスの聞いた低い声を響かせる。
「お嬢。初めてお目にかかりやす。あっし、こちらの料理番をさせて頂く、名は鬼瓦という者です」
極道映画の様に、今にも片膝でも付いてきそうな挨拶に、
「は、はじめまちて……。ココ、でちゅ……」
2歳児は何とかかんとか、小さな顔にへらっとした笑みを浮かべた。
「お嬢。どうぞ、こちらを飲んでみて下せえ」
そう勧められたのは、小椀に盛られた出汁だった。
「昆布・鰹節で出汁を取ったものに、しらす干しで塩味を足したもんっす……」
ふ~ふ~しながら口に含むと、柔らかな旨味が口一杯に広がって。
大きな瞳を瞬かせたココは、美味しそうにそれを飲み干した。
「出汁がどうしたの?」
不思議そうな龍一郎に、鬼瓦が説明したのは――
ココは小食なのではなく、胃腸が動き出すタイミングが他人より遅いだけだと思われること。
昆布・鰹節・しらす干しの旨味はグルタミン酸を多く含み。
そのグルタミン酸が胃粘膜に作用し、消化吸収を促す性質があるのだそう。
確かに数分すると、ココの胃腸がゆっくりと働き始めたようで。
そうすると目の前の美味しそうな食事に、少しずつ箸を付けられるようになった。
「さっすが、鬼瓦さん! 頼りになる~」
尊敬の眼差しを向ける龍一郎に、鬼瓦はニコリともせず、ただ一言。
「……恐れ入りやす……」
「という事は。ココ様には食前酒ならぬ、食前出汁をお出しすれば宜しいでしょうか?」
山田の問いに、鬼瓦は頷く。
「他にも、グルタミン酸を多く含む、湯葉・豚・大豆……。洋風だと、チーズ・トマトなんかのスープでも、良いかと……」
「……あ……」
その説明に、桃色の唇から小さな声が漏れる。