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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

――だけなら “微笑ましい家族の図” で済んだのに。

そこで収められないのが、龍一郎という男。

「じゃあ、ココ。仲直りのチューして?」

「……あぃ……?」

桃色のちっちゃな唇から漏れたのは、そんな愛らしい声だったが、

心の声はと言うと、もちろん「あ゛ぁっ!?」だった。

「ん~~? 照れてるのか~? 毎日 朝晩してるでしょ?」

「………………」

にやあと笑む男に対峙した幼女の瞳は、これ以上無く げんなりと曇っていた。

(照れてないわい。じゃなくて、てめえのロリコンぶりにドン引きしてるんだよ)

ちなみに、誤解の無い様に言っておくが、「毎日 朝晩してる」のは “ほっぺにチュー” だからね。

というのも、ここに世話になりだした日の翌晩。

龍一郎が勝手に言い出したのだ。

『ココ~♡ 今日からは毎日 “おはようのチュー” “おやすみのチュー” しようね~♡』

――等と。

思わず「ココ、日本人でちゅ!」と習慣の違いを主張してみたものの、その反論が受け入れられる筈も無く。

チューするまで離してくれない龍一郎に、眠くて眠くて根負けしたココは、半ばやけくそで ほっぺにチューをしてしまったのだ。

以降、それに味を占めたらしい龍一郎は、ことごとく様々な要求をし続け。

結果――

ここに世話になった1ヶ月の間に、龍一郎が定めた “御手洗家 家訓” は3つにもなってしまっていた。



【その1 おはようのチュー & おやすみのチュー】

【その2 3食のどれかは一緒にとる】

【その3 一緒にお風呂に入る】



(パッと見 “良いお父さん像” に見えるのが曲者だよね……。私の養父は 山田 悟 なのに……)

未だココを太ももの上に抱きかかえたままの龍一郎の腕の中から、この屋敷の家宰たる男をじいと見つめるも。

漆黒のお仕着せをぴしりと着こなした自分の養父は、澄ました表情のまま、目も反らす事無く2人の様子を静観していた。

(この屋敷に常識人はおらんのか、くそぉ……(´;ω;`))

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