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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

やっと朝食の席から解放されたココは、□字型の屋敷の1階を重い足取りで歩いていた。

そんな幼女に、明るい声を掛けてきた男が1人。

「お? ココ、イイもの連れてるな~?」

未だ風船がふよふよする廊下。

そこを(先程 龍一郎が得意気に造ってくれた)ピンクバルーン製のワン公を散歩させる様に、ずるずる引き摺っていたココ。

「……あげまちゅ」

小さな手に握り締めたそれを ずいと目の前の男に差し出せば、帰って来た答えはやはり、

「うん。いらない」

「あ……ちょ……」

俯きながら のろのろと目の前を通り過ぎようとするココを、その男――ツバサが止める。

ツバサ こと 青空 翼(23)は、この屋敷の使用人 兼 ヘリの操縦士。

元々航空自衛隊にいたところ、バーで龍一郎と意気投合し。

その場で “自家用ヘリの操縦士” にとヘッドハンティングされた、逸材(?)らしい。

その前歴が示す通り、バリバリの体育会系のツバサは、お仕着せを着ていても判るくらいムッキムキで体格も良く。

剛毛の黒髪を短めに揃えた、精悍な好青年だった。



ちなみに――

「もし名前が、某有名少年漫画と同名の “大空 翼” だったら、間違い無くサッカー選手になったでしょ?」

と周りから散々尋ねられるそうだが。

本人曰く「俺、球技全般、全く駄目だから(キッパリ)」――らしい。



「で、どうして、そんな疲れた顔してる?」

漆黒のスラックスに皺が寄るのも気にせず、目の前にしゃがみ込んだツバサに、

ココは困り顔で理由を説明した。

「ここのおうち……広過ぎまちゅ……」

1階だけでも大小合わせて12部屋+温室+プール。

2階も同上。

そしてその1部屋1部屋が阿呆みたいにデカいので、それらを繋ぐ廊下も必然と長くなる。

緑が茂る中庭が常に視界に入る素晴らしい廊下とはいえ、3歳児のココにとってのそれは、

“死のロード” ばりに辛い道程だった。

(なんせ自分……。今 股下30cmだかんね……)

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