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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

「あ~~、確かに広いな。だから俺、ここの掃除してるだけで、かなりの筋トレ代わりになってるし」

そんなあっけらかんとした返事を寄越すツバサに、ココは自分の格好を見下ろす。

ベビーピンクのノースリーブのドレスは、上半身には薔薇を模した飾りが ふんだんにあしらわれ。

そして床上まで伸びたスカート部分は、幾重にも重なるシフォンのチュールで もっふもふだった。

あまりにも もっふもふな為、自分で己の足元が確認出来ない程に。

もちろん、これはココ自身の好みでは無い。

龍一郎が「あれも似合う」「これも可愛い」と、どんどんドレスを新調する為。

ココのウォークイン・クローゼットは “ベル薔薇” ばりのドレスの数々で溢れかえっていた。

(あ゛~~……。これでTシャツ短パン姿だったら、もっと歩きやすいし。「汚してもいいや」とその辺に座り込んだり寝転んだり出来るのに……)

駄目元で、

「セグウェイ的なものは?」

と問うてみるも。

「ある訳あるか。というか、ココの身長では無理だろ?」

“3歳児がセグウェイを知っている違和感” については突っ込みもしないツバサに、そうぴしゃりと返されたココ。

「やっぱち……?」

ちっこい肩をがっくり落としたココはまた、歩いても歩いても辿り着けない廊下の端へ、短いあんよを踏み出したが。

「その代り、俺らがいるだろ?」

そんな意味不明な言葉を寄越したツバサ。

ひょいっと抱き上げられたかと思えば、そのちびっこい身体は遥か頭上にあった。

「ふぇっ?」

驚きの声を上げたココの目の前、黒々と生い茂る短髪の頭。

いわゆる肩車をされていると判った途端、両脚だけを支えられているその状態に不安になり、咄嗟に目の前の頭に両腕を回した。

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