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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章 3歳児の憂鬱
「ぷっ 「くすぐったいです」だろ?」
「……「くちゅぐ――」……」
律儀に言い直すも、2文字目で躓いたココは、すぐに押し黙り。
不服そうに桃色の唇を尖らせた。
「ん~? チューをお強請りしてるのかな?」
ならば期待に応えようと、頭1個分下にある顔に唇を寄せようとすれば、
広いだけが取り柄の薄い胸板に、モミジの両掌で突っ張られた。
「ねっ 強請ってないでちゅっ!!」
必死の形相で言い募る3歳児の可愛らしさに、龍一郎は本日 何度目になるであろう笑い声を零した。
「あははっ もう、可愛いなあ~、ココ~」
(サトちゃんは「2~3歳児は手が掛かって大変」って言ってたけど、ココは全然そんな事無いし)
癇癪を起こす事も無ければ、我が儘で手を焼かせる事も無い。
未だ口調はたどたどしいが、そのへんの大人の様な一端の会話が出来る。
世の中には、己の子に手を上げる鬼畜な親もいるが。
龍一郎にとっては血の繋がっていないココでも、一緒に過ごした1ヶ月の間に、この上無く愛おしく大事な存在になっていた。
ただ、1つ不満があるとすれば――
「大好きだよ」
そう囁く度に、この子は何故か、困った様に目を逸らす事くらいか。
今も常と同様、戸惑ったようにヘーゼルの瞳を窓の外へと向けたココ。
「ココは? 俺のこと、好き?」
「………………」
「ココ?」
辛抱強く、問い続ける。
6歳からの10年間、自分は訳あって日本を離れアメリカで育った。
そこで世話になった米国人達と接した事により、きちんと言葉と態度にして、互いの愛情を確認する大切さと素晴らしさを、龍一郎は身を以て知ったのだ。
(だからココにも、そう育って欲しいんだけど……)