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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

掌で温めの湯を掬い、その小さな背中にかけてやっていると。

「……ちょっと……だけ」

ガラス越し、中庭へと視線を彷徨わせていたココが、ちらりとこちらを仰ぎ見て、ぽそっと呟いた。

「ん?」

そう短く促せば、桃色の唇から続けて発されたのは、

「……ちょっとだけ、しゅき……」

そんな可愛らしい、3歳児の告白だった。

俯いた小さな顔を覗き込めば、ほんのりと桃色に染まった ふっくらほっぺを恥じるように、そっぽを向いてしまった。

なんてシャイな子なのだろう。

「ココ~~~っ♡♡♡」

ここ3年程、味わう事の無かった喜びの感情が湧き上がり。

目の前の愛し子を ぎゅうと掻き抱けば、腕の中のココは嫌がる様子も無かった。

だから、気を良くした龍一郎は、

「じゃあ、ココの「ちょっとだけ好き」が「大好き」になったら、俺と婚約しようね?」

「……~~っ!?」

――そんな、気の早い “プロポーズもどき” をし。

まだ自分の半分の背しかない幼女を、驚嘆させたのだった。






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