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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

「ココ? ほら「ばんざ~い」しないと、洗えないぞ?」

突っ立ったまま求めに応じないココを、不思議そうに覗き込んでくる龍一郎。

「ば……、ばんじゃ~~い」

慌てて短い両腕を上げるも、泡立てたスポンジで脇腹を撫でられた途端、

「ふひゃっ!? んにゃ……っ」

あまりのくすぐったさに、思わず両脇を閉めてしまった。

「こら、ココ~~。洗えない~~」

苦笑を浮かべた龍一郎に謝り、もう一度両腕を上げるも。

「ごめんちゃ……っ く、くふひゅ……っ」

「幼児の皮膚は薄くて敏感だから」と細心の注意を払いながら擦ってくれる龍一郎の洗い方に、笑いが止まらなくて。

ちっちゃな身体を捩りながら ひたすら耐えていると、

目の前の男の顔が にまあ としか表現出来ない、緩んだ笑みを浮かべた。

「敏感だな~、ココ。これは将来が愉しみだ。はっはっはっ」

「………………」

己の保護者的存在の男に、そんな事を面と向かって言われ。

凍り付いた幼女の身体を、ただただ楽しそうに洗い上げていく龍一郎。



何が「愉しみ」なのか? ――だなんて。

想像したくもないぜ、はっはっはっ





全てを洗い終えたココを浴槽に浸からせた龍一郎は、己の髪と身体を清め始め。

その様子を、白いバスタブの縁を両手で握りながら、ココはぼんやりと眺めていた。

18歳という年齢が指し示す通り、まだ少年の華奢さを残した男。

無駄に長くひょろっとした四肢は、いつもやや乱暴に動いている様に見える。

もしかしたら、本人もその長さを持て余しているのかも知れない。

1つ1つの動作が大きくて、がっしがっしわっしゃわっしゃ 洗っているように見えて、実はその指先は凄く繊細で優しい。

普段も「ああ、そんなに雑に扱ったら壊れる」と肝を冷やすこと多々――なのだが。

意外と何事も、そつ無く熟すタイプらしい。

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