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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

洗い終えた頭を、まるで大型犬の様にぷるぷると振るので、黒髪から飛び散った滴が こちらにまで飛んで来た。

身体を洗うために、スポンジを取り上げた龍一郎と ふいに目が合って。

何故か少し焦ったココは、適当な事を呟いた。

「ここのおうち、色んなお国、みたいでちゅ……」

「あ~~、ココのお部屋はモロッコ風な。俺のはバリ風」

「あい」

互いの部屋どちらかで風呂を使ったり寝たりするので、ココもそれは承知していた。

「ライブラリーはロシア風だし、サンルームと温室は英国風」

他にも、ティールームはどこからどう見てもインド風だった。

なんたって、真鍮製のガネーシャ(インドの像型神様)の像があるのだ。

ありがたや(-人-)

「どうちて?」

屋敷全てをバリ風にする家は他にもあるだろうが。

この御手洗家はそれに飽き足らず、まるで節操無しにありとあらゆる国の様式を取り入れている。

まあ、余程デザイナーのセンスが素晴らしかったのか。

ごちゃごちゃしていたり、違和感を覚えたりする事も無く、どの部屋も快適に過ごせるが。

「ああ、面白いかな~と思って」

「おもちろい?」

バスタブの縁に乗せていた頭を傾げれば、想定の範囲内の返事が返ってきた。

「家の中で異国情緒が味わえるだろ?」

「あ~……」

続けて、この際だから聞いてしまおうと、以前からの疑問を口にする。

「山田しゃんは どうちて「サトちゃん」って呼ぶのぉ?」

「あ~、面白いだろう?」

その龍一郎の返事は、何が “面白い” のかは、よく解らなかった。

目蓋をぱちぱちと瞬いたココ。

ひょろ長い身体を ごしごし洗い清める龍一郎に、最大の疑問をぶつけてみた。

「じゃあ、どうちて ココを “パパのお嫁さん” に、ちようと思ったの?」

ちなみに、即答された理由は、

「だって、面白そうだろう?」

「………………」

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