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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱



(アウチっ 「消費税率10%引き上げ時期を前倒し」てかい……)



まだまだツクツクボウシが大合唱で、ヒグラシは準備運動中な9月初旬。

御手洗家に来てから、2ヶ月程 経った頃。

“ゲロ苦漢方でも飲んだかの様な苦悶” を浮かべたココは、目の前の活字を追っていた。

(「あべし」……じゃなかった、安倍氏。

 ホントにデフレ脱却したとか、思ってんのかしかし……)

ヘーゼルの瞳を眇め、昨夜行われたらしい首相会見の内容を追っていると、

残念なことに そびえ立っていた日経新聞の壁は、次の社会面へと捲られてしまった。

空色のドレスに包まれた肩を竦め、眼精疲労を紛らわそうと栗色の頭を左右に倒せば、

背後から寄せられた鼻の気配に、途端に げんなりしたココ。

「……~~~っ」

(幼女の頭の匂いを嗅ぐんじゃないよ、このド変態がぁ~~っ!!!)



どこぞ村の民芸品が印象的な、ロシア風内装で彩られた図書館の一角。

大きなソファーに どっかり腰を下ろした龍一郎の太ももの上、

人型座椅子に坐した状態のココは、朝食後の日課である新聞タイムに付き合っていた。

背後からヒトの つむじをスンスンと嗅ぎ、最後にちゅっとキスを落としてきた男に、

ココも当初は「やめてくだちゃいっ」と必死に抵抗したのだが。

その度に、

「そんなツレナイ事いう子は、こうしてやる~」

そう のたまった相手に身体中をこそばされるので、もう色々と諦めていた。

「パパ、おちゃ~~」

目の前のテーブルに置かれた茶器を強請れば、ひょろ長い腕がそれを取り上げ渡してくれる。

ちなみに、薄緑色のハーブティーが満たされた藍と白色のそれは、ロシアのグジュリ村産の陶器だそうだ。



グジュリ村……?

グジュリ村……。

死ぬまでに訪れることすら無い位、ロシア本土のどこに位置するのか分からんわ~。


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