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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章 3歳児の憂鬱
本日もツバサに肩車されたココは、その肩の上で めい一杯両腕を伸ばしながら愚痴っていた。
「……パパは、変わってまちゅ」
「あはは、そうだな~」
3歳児の細短い両脚を掌で包んで支えるツバサは、我が主を “変人呼ばわり” されたのにも関わらず、愉快そうに笑っていた。
「ココ、それより、隣の実の方が食べ頃じゃないか?」
「あ~~い」
目の高さに実る紫色の果実を両手で包めば、ちょうど収穫期のそれは簡単に枝から外れた。
「もっと取りまちゅか~?」
「いや、もう充分」
ガラス張りの英国風温室(植わっているのは南国植物)で、パッションフルーツの収穫を手伝っていたココ。
その身を軽々と持ち上げ、地面へと降ろした使用人 兼 操縦士のツバサは、栗色の頭を「良く出来ました」と撫でていた。
「美味しいかな~? 食べてみまちゅ?」
手にしていた1つを ずいと差し出すも、
「あ~いらない。あんな黄色いカエルの卵みたいなもの、食えるか」
目鼻立ちがはっきりした精悍な顔を歪めた男は、首を横に振った。
(甘酸っぱくて美味しいのにな~。まあ確かに、カエルの卵っぽいけど)
「何? ココ、坊ちゃん苦手?」
黒のお仕着せ姿で、パッションフルーツをジャグリングし始めたツバサの問いに、
「苦手……では、ないでしゅが……」
ココは小さな口の中で、もにょもにょと言葉を濁した。
好きか嫌いかと聞かれれば、好きだし。
善人か悪人かと聞かれれば、まあ善人だとは思う。
ただ、
得意か苦手かと聞かれれば、苦手ではないけれど……。
というか、
「龍一郎が得意」とか、良く分かんない日本語だ。
そんな どうでも良い事を考えていると、
「ツバサ。航空官署から飛行計画について電話が入っていますよ」
山田から そう声を掛けられたツバサは、
「あ、分かりました。じゃあな、ココ。良い子で遊んでろよ~?」
そう言い残し、温室を後にして行った。