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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱



しかし、

未開の地の有り様は、ココの予想を遥かに超えていた。



生活空間の左側と同様、□字形の中庭を囲む廊下で繋がれた3つの客室。

そこを拙いスキップで、意気揚々と突き進んで行くココ。

最初は鼻歌交じりに、降って湧いた冒険を愉しみ、

ある筈も無いお宝を物色する為、扉という扉を開け放して回っていたのだが。

それも数分もすれば、整然と整えられただけの客室に、弧を描いていた桃色の唇がその口角を下げていった。

幼女からすれば だだっ広い空間は、塵一つ無い清潔な状態に保たれてはいるが。

無音 かつ 人の気配が全く感じられないそこは、気のせいか。

室内温度が1~2℃、低い様な気までしてきて。

「………………」

高温多湿の晩夏 真っ只中、

ちっちゃな身体をぶるりと震わせたココは、気分を変えようと低い鼻から「ふん」息を吐き出した。

(てか、ルンバはどこ行った、ルンバは~?)

地雷除去ならぬゴミ収集を熟す、お茶目なお掃除ロボを からかいにやって来た筈なのに。

もうお掃除タイムは終了したのだろうか?

し―――ん と静まり返るそこには、あの真ん丸な愛らしい姿は見当たらなかった。

「ちぇ……、期待はじゅれ……」

空色ドレスの肩を落とし くるりと方向転換したココは、とぼとぼ元来た廊下を戻り始めた。

のだが――

その低い視界、

ひらり と白い布が垂れ。

「ん……?」

照明も灯らぬ長い長い廊下に響く、疑問形の声。

しかも その布が、

ぽんぽんと自分の頭上で跳ねている。

その異常事態に、ヘーゼルの瞳を真ん丸に見開いた幼女は、

短い首を ぐぎぎぎ……と捻り、背後を振り返った瞬間。

「……っ ふぎゃぁあああああああっ!!!」

石造りの洋館には、生後間もない羊が絞殺されんと上げた様な、断末魔の叫びが轟いたのだった。


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