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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章  2歳児に惚れた男?



◆◆◆



「ったく。なんで、この俺が……っ」

大きめの唇から漏れた うんざりした呟きは、バラバラと騒音を上げ続けるプロペラの旋回音で掻き消される。

そう分かってはいるのに、それでも男は続けてしまう。

「いきなり呼び出しやがって。大体……、何だよ、あの文面は……」

30分前。

己の元へと届けられたメッセージは、危機迫るものだった。



『「助けて」とは言わないわ。

 貴方には良くして貰ったから「あげよう」と思って。

 部屋の納戸に隠してある。

 急いで!

 早くしないと、あいつらに持って行かれる!』



英語で寄越されたそれは、送り主の焦りを写し出すように、いくつかのスペルミスがあった。

浜離宮に面した高層マンションの屋上。

そのヘリポートから屋内へ入った男は、足早に女の部屋のある階へと向かう。

最上階の為、なかなかやって来ないエレベーターに じりじりし。

ようやく部屋に到着し、渡されていた合鍵で玄関扉を開錠した。

その瞬間。

目に飛び込んできた “もの” に、思わず口から零れたのは、

「……なんだ、このチビ……?」

そんな緊張感の無い言葉だった。

それもその筈、男の身長は187cm。

対するチビ――もとい、どこからどう見ても1~2歳児の幼女は、大理石の玄関ホールにしゃがみ込んでいたのだから。

「………………?」

透き通って見えるほど明るい栗色の髪。

伸びた前髪の間から覗く大きな瞳も同じ様な色で、そこには驚愕と、そして紛れもない怯えが浮かんでいた。

「……お前……?」

そう声を掛けた次の瞬間。

靴箱に短い腕を突っ込んでいた幼女は、ぺたりと石の床にへたり込んだ。

桃色の唇を半開きのまま、自分を仰いでくる相手は、問い掛けには答えず。

ひょいとしゃがんで幼女を覗き込めば、小さな顔には おろおろとした表情が浮かび始める。

「お前……。もしかして、リーザのガキ?」

「………………」

「おい、そうなのか?」

「………………」

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