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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章 2歳児に惚れた男?
うんともすんとも言わぬ幼女。
もしや日本語が通じないのだろうか。
ならば英語でと、口を開きかけた その時。
目の前のチビは、こくりと頷いてみせた。
(まじかよ……。まさか “コブ付き” だったとは……)
少し大きめの唇から洩れたのは、途轍もなく深い溜息。
脳内に渦巻くのは、自分のこれまでの女性遍歴だった。
11歳で強引に筆下ろししてきた女は、自分の父親の愛人で。
本妻になれない鬱屈したものを、その息子で晴らすような鬼畜女。
13歳で初めて惚れた女は、性行為の最中に勝手にヤクを打ってくる馬鹿女。
16歳で、ようやくまともな恋愛が始められる相手を見つけたと思ったが、
恋人となった筈の女は、1億円に及ぶ時計コレクションを根こそぎ奪い、姿をくらやましやがった。
そして現在。
18歳の己は、遊び相手と割り切っていた筈のウクライナ美女に、何故かこんな厄介ごとに巻き込まれていたりする。
薄いニットに包まれた広い肩が、がっくりと落ちる。
もう女なんてコリゴリだ。
あいつらは自分の権利だけはゴリゴリ主張してくるくせ、
結局は快楽と贅沢と物欲といった欲望でしか、己を満たす術を持たない しょうもない奴ばかり。
「リーザ……、ママは? どこ行った?」
やや つっけんどんになってしまった口調に、チビは色素の薄い眉を寄せるだけ。
「誰かに連れて行かれたか?」
その問いには、また微かにこくりと頷いた。
「なるほどねえ……」
そう独りごちながら、ひょろりと縦に長い身体を起こし。
靴を履いたまま、何度か足を踏み入れた事のあるマンションの中へと入って行けば。
「うわぁ、ひでえ荒らされようだな、こりゃ」
外に面したガラスが割られてないのが不思議なくらい、辺りは見るも無残な状況だった。
そして、ところどころに散った赤黒い飛沫は、紛れもない血痕。