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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

そろそろ早朝夜間は肌寒くなってきた秋冷の候――10月。

ココは ある事に頭を悩ませていた。

「……やっぱち、無いか……」

ロシア風の内装で設えられたライブラリーの一角。

普通の家の2倍はありそうな高い天井。

そこまで伸びた書棚を見上げるも、どこをどう探しても自分が求める本は無かった。

まあ、あまり期待してはいなかったが。

ちなみに、ココが求めている本 = 育児書 だ。

(あ゛~~、私 周りに幼児いなかったから “3歳児の普通” が分かんないのに……)

前世の自分は結婚していたが、出産経験は無く。

2歳下の妹に至っては、結婚すらしていなかった。

「う゛~~ん……」

凹凸の少ない顔に浮かんだ、困惑の表情。



“3歳児の普通”



3歳児の “運動能力” なら解かる。

階段も登れるし、駆けっこも出来るのは、身を以て知っているから。

けれど、それ以外は全く判らないのだ。

例えば、3歳児の “知能レベル”。

どんな言葉までなら理解出来るか? 

どんな遊びを好むのか? 

文字は読めるのか読めないか? 

――などなど。

要するに、御手洗家の人達に、

「こいつ、3歳児にしては大人びていやしないか?」

「なんか変だ。怪しい……」

と勘繰られぬ為に、ココはそれらの情報を欲していたのだ。

書棚を見上げていた栗色の頭で ぐりんと振り返れば、ライブラリーの1画に置かれたパソコンが目に入る。

しかし あれにはロックが掛かっており、ログインパスが無いと閲覧出来ないのは、既に確認済みだった。

(私、前世では ちょっと、ネット依存気味だったんだよね……)

解らない事があれば すぐにググり、外出時はスマホが無いと不安で不安で仕様が無かったくらい。

しばらくその場で短い両腕を組み、考え込んでいた幼女。

やがて意を決した様に、ライブラリーを後にして行った。




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