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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章 2歳児に惚れた男?
(可哀想に……。あんなにチビなのに、今日から孤児か……)
まるで毬の様に、ちっちゃくて丸い人間を思い出す。
自分は訳あって、13歳で親元を離れた。
あれはまだ、ほんの幼児なのに。
『私には、宝物があるの。
お金なんかじゃ、買えないものよ……』
『龍……。貴方になら、あげてもいいわ……。
貴方になら――』
少なくとも20回は肌を重ねた女の、閨での睦言が脳裏を過ぎる。
宝物。
あの、成り上がることにしか興味の無さそうだった女が、己の命を犠牲にしてまで守りたかったもの。
そう思うと、あの小さな生き物の行く末が、何故か気に掛かる。
ちなみに――
男はその情の深さと人の好さから、女達に次々たかられ、いいように振り回されてきたのだが。
如何せん、まだ18歳の当人は「自分は既に独り立ちした大人だ。血も涙も情けも無い冷徹男だぜ」と粋がり。
己の本質とその甘さには、全く気付いていなかった。
「ふむ……」
物音一つしないリビングの隅。
胸前で両腕を組んだ男は、よく切れる頭で瞬時に思考を巡らせる。
もうその辺の女には飽きたし、それに女という生き物には心底幻滅した。
ならば自分の手で、己好みの女を育ててみるか――?
悪くない考えだ。
くれるというなら遠慮無く貰ってやる。
“あれ” は今日から、自分の実験用モルモット。
どう育てれば “まともな女” が育つのか。
それとも どう育てても、女という生き物は自分の知る “それ” にしかならないのか。
そうと決まれば、男の行動は早かった。
ひょろ長い脚で元来た廊下を大股で戻ると、未だ玄関にへたり込んでいるチビに命令する。
「おい。お前は今から “俺の物” だ」
「……? パパぁ……?」
初めて聞いたチビの声は、小さくて高くて、若干震えていた。
よく見れば、色素の薄い大きな瞳は、今にも泣きだしそうに潤みを帯びている。