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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

「前世の自分は、30歳のOLで……。駄目夫と争ってる時に、打ちどころ悪くて死んじゃって……」

「ほ~~」

とつとつと事実を述べる3歳児に、珍しく間延びした相槌を寄越す義父。

「色々あって、三途の川を渡ったまでは良かったんでしゅが……。その対岸に、サンバ踊ってる美女がいて」

「……は……?」

「そやつ「ひゅ~ひゅ~」言いながら、露出狂ばりに踊り狂ってて……。挙句の果てには「ワインどうぞ~」って赤ワインを薦めてきて……」

「………………」

どんどん意味不明になっていくココの語りに、とうとう山田は黙り込む。

「その赤ワインを飲まなかったからか、ココとして生まれ変わってからも “前世の記憶” が残ってるんでしゅ」



輪廻転生して この方3年。

実の母親にさえ言えなかった自分の過去を一気に口にしたココは、何だか背負っていた重い荷物を降ろしたかのように、楽になった気がして。

小さな肩を、ぴょこんと落とした。



まあ、もっと厳密に説明するならば――

頭を打って出血して死んだ自分に対し、あまりにも能天気に赤ワインを差し出してきた美女に、

『そんな血みたいな赤ワイン、飲めるかっ!!! アホボケカスシネっっ』

と、八つ当たりも甚だしく怒鳴り散らせば。

あからさまに しょぼんとしたサンバダンサーが、何故か回れ右して ばっしゃばっしゃ三途の川に入って行き。

数分後、

『死ねなかった……てか、もう死んでるし』

と、ずぶ濡れになったコステイロ(背負う羽飾り)を重そうに引きずりながら、戻って来たのだが――



(あの時、あの悪趣味な赤ワイン飲んでたら、今の自分って ただの3歳児だったんだよな~)

あれを飲んで “心身共にまっさらな自分” に生まれ変わり、一からやり直したほうが幸せだったのか。

それとも、

過去の過ちを糧として、新たな身体で人生をやり直している今のほうが恵まれているのか。

ココは今でも、よく分からない。


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