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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

「……なるほどね。だから貴女は新聞も読めれば、3歳児とは思えないボキャブラリーをお持ちなのですね?」

黒縁眼鏡の奥、納得した様な していない様な瞳をした山田が、そう続ければ、

「う、うむ……」

言いたい事は言ったココは、勿体ぶって胸の前で両腕を組んだ。



さあ、どう出るサトちゃんよ!

「こいつ狂ってる」と、3歳児を精神病棟 送りにする?

「妄想乙」と聞き流す?

それとも、

「これは悪霊の仕業だ」と霊媒師の世話になる?



『さあ、ご注文はどっち――!?』



2006年までやっていた某バラエティー番組の決め台詞を、真っ平らな胸の中で唱えた3歳児(中身・三十路)。

半ばやけくそ気味に、義父の選択を待っていたココだったが、

返ってきた山田の反応は「ふ~~ん」だった。

「………………?」

(ふ、「ふ~~ん」? そ……それだけ???)

あまりにあっさりした返事に、拍子抜けしたココが見つめなおせば、

「まあ私は別に、貴女が どんな人間で、どんな過去を持っていようが気にしませんよ」

「……へ……?」

「私の主たる坊ちゃまが、貴女を気に入っている――その事が、私にとっては重要なのですから」

目の前の男のその言葉に、ヘーゼルの瞳の中、瞳孔がきゅうと狭まった。

「………………」

(それって……。

 それって、私がどんな人間かだなんて、全く興味無いって事、だよね……?)



いや、解ってたんだけどさ。

天涯孤独の自分が山田の義娘になれたのは、この屋敷の主――龍一郎の一存からだという事は。

うん。

解かってたんだけどさ……。

やっぱ、あれじゃん?

3ヶ月も一つ屋根の下、寝食を共にしてきたからさ。

何て言うの?

“情” みたいなの?

少しくらい湧いてくれてたり、するのかなあって。

義父に対して、無意識に期待してた……かも。


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