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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章 3歳児の憂鬱
11月に入ると、山頂に位置する御手洗家では、気温が10℃を切る日が増えてきた。
そんな休日。
月に1度~2度 有るか無いかのお出掛けで、横浜中華街に繰り出していた龍一郎とココ。
胃にたらふく美味しいものを詰め込んだのち、我が家(石造りの洋館)へ車で帰り着けば。
「豪勢にも程があるだろう」と突っ込みたくなる玄関先に、見慣れぬものが居た。
背の高い玄関扉の前、大理石の上に丸まる黒い物。
車の中から見つけた それに、最初「ゴミ袋?」と首を傾げていたのだが。
リムジンが玄関に横付けされれば、
「ぬこ……っ!?」
ガラスに両手を張り付けたココの唇から漏れたのは、いわゆる “ネットスラング”。
黒く丸い物――それは黒猫だった。
「ん? ああ、あれにはちゃんと “タマタマ” っていう名前があって――」
リムジンの運転席から降り、ココの為に後部座席の扉を開けてくれたツバサが、そう訂正すれば、
「よいよい。あれは今日から “ぬこ” だ」
幼女を抱きかかえながら車から降りた龍一郎が、何故か殿様みたいな口調で運転手を制した。
「え~~? “タマタマ” で、良いでちゅよ?」
(うん。出来ることならば、3歳児が “ぬこ” を知ってる違和感を、早く誤魔化したいわ)
どうやらこの黒猫、たまに御手洗家へ ひょっこり現れる野良猫らしい。
元々ある名前で問題無いと、自分の2倍 背の高い龍一郎を振り仰げば、
「はは、遠慮深いな~、ココは」
大きな掌でぐしゃぐしゃ、栗色の頭を撫でられてしまった。
「ニャ~~」
「よしよし。お前も “ぬこ” が気に入ったんだろ~?」
腹が減っているのか。
龍一郎のデニムの裾に、頭を擦り付ける黒猫。
しかも良く見れば、口元と腹下、手足の先だけは白色の、いわゆるホワイトソックスだった。