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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱

「……か、かわいい……♡」

前世では犬派だったのだが、こう全力で甘えている猫を目にすると、猫も良いものだ。

しゃがんで両手を伸ばすも、人見知りするタチなのか。

ぬこは するりと龍一郎の陰に隠れてしまった。

「どうちて “タマタマ” なの~?」

ふと疑問に思い、元の名前の由来を尋ねれば、帰ってきた答えは最悪な物だった。



この黒猫は雄らしく。

そうすると、うん……、あるよね?

後足の付け根のところに “タマタマ” なるものが――

つまり、

“タマタマ” = 雄猫の睾丸ω

という、あまりにも可哀想なネーミングをされていたのだ。

「俺としては、ココが “タマタマ” 呼びするのも、萌えるから良いけど~~?」

にやにや厭らしい笑みを浮かべ、見下ろしてくる変態男に、

両の拳を握り締めた3歳児は、

「 “ぬこ” でっ! “ぬこ” でお願いしましゅっ!!」

そう、名前の変更を力説したのであった。

(すまぬ……。許せ “ぬこ” よ。これは不可抗力である)



というか。

この屋敷、本当に男と雄しかいないのな。

前世だったら「逆ハー!? ひゃっほいっ!!!」と狂喜乱舞したかもしれないが、

幼女となった今、異性に囲まれた現状に身の危険しか感じられないのは、何故だろう?



それからというもの。

寒さが苦手な ぬこは、御手洗家に居着く様になった。

おそらく「この屋敷で冬を越そう」と目星を付けたのだろう。

何しろ御手洗家で振る舞われるエサは、高級キャットフード。

野良猫からしたら、床暖房完備、上げ膳据え膳で天国なこと この上ない筈。

そして、日々 暇を持て余していたココは、絶好の玩具と認定した ぬこを追い駆け回していた。

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