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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章  2歳児に惚れた男?

「おいで。ここにいたら危険だ」

“危険” という単語が解ったのか。

丸っこい背中を びくりと震わせた幼女。

「俺が守ってあげる。こんな所からは、一刻も早く逃げ出さないと」

「………………」

「ほら、おいで?」

チビの目の前、屈んで両手を差し出せば。

桃色の唇がようやく、言葉らしい言葉を紡ぐ。

「……こ、こちが……」

先程まで色濃かった脅えが嘘のように、眉をハの字にした情けない顔をする相手に、

「こち? ……ああ、もしかして腰が抜けたのか?」

そう確認すれば、チビはまたこくりと頷いた。

「ぷはっ チビでも驚いたら腰抜けるんだな? 新たな発見」

思わず吹き出し、有無を言わさず目の前のチビを抱き上げ、立ち上がる。

そう、ここにゆっくりもしていられない。

この子の母を襲った輩か、警察がいつ踏み込んできてもおかしくなかった。

腕の中のチビは、本当にちっこかった。

まるで玩具を拾い上げたかのような軽さが、心許なくもあり、これからの成長にも期待を膨らませてくれる。

「決めた。お前は “俺の女” にするぞ」

そんな事を宣言されても、ピンと来ないのか。

チビは未だに情けない表情を浮かべていた。

「心配するな。俺がお前を絶世の美女に育ててやるからな。はっはっはっ」

そう高らかに笑った男は、玄関を出ると共用の廊下を足速に歩いていく。

そしてその頭の中では、とんでもない事を思い浮かべていた。



女は何歳から女なのだろう?

どう育てたら清楚になって、

どう育てたら妖艶になるのだろう?

そして、

何歳になったら、自分から俺を求めてくれるだろう?



そんな未来に思いを馳せれば、整った顔が にやにや緩むのも止められず。





そして この瞬間。

母なる地球に新たな “変態” が生み出されたのは、紛れもない事実なのである――








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