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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第3章  4歳児とプー太郎(もどき)

最初は、軽くリップ音を立てつつ、張りのある唇が押し付けられただけだった。

しかしそれが、何度か繰り返されたのち、

ぷりんとした桃色の唇を吸い上げ、

更には、あまりの事に硬直し真一文字に結ばれたそれを、ぺろぺろと舐め始める。

「……~~~っ!?」

ようやく我に返ったココが、ヘーゼルの瞳を真ん丸に見開けば、

「大きなお目め。零れ落ちちゃうぞ?」

そうからかった龍一郎が、更に調子に乗って、ちゅ~~~っと合わせ目を吸い上げてきて。

思わず両腕を振り回し、バタバタ抵抗したココ。

ようやく唇を離した龍一郎が、にんまりしながら こちらを覗き込んでいたが。

その腕の中から脱兎の如く逃れたココは、高さ2mもある巨大ツリーの陰へと、一塁走者ばりに滑り込んだ。

緑の枝と赤のオーナメントの隙間から垣間見える龍一郎は、まるで逃げた子猫を面白がるように笑ってやがる。

「ココ~、こら、逃げないの~」

アルコールが入っているからか、いつもより間延びした声。

それでなくとも子供の心拍数は、大人のそれより早いのに。

小さな両手で皺になるほど握った白ドレスの胸は、ありえないくらい早鐘を打っていた。

(な、ななな……っ なに、人の唇 舐めとんじゃ~~っ!?)

先ほど20歳の男に蹂躙()された己の唇を諌めるように、小さな乳歯で噛み締める。



ここに来た当初から、龍一郎はキス魔だった。

初めの頃はキスされる度に驚嘆し慌てていたココも、それが毎朝晩続けば、いつしか慣れきってしまっていた。

けれど、そんなキス魔でも、

16歳も離れた幼女に光源氏症候群を発動するようなド変態でも、

今まで “唇を奪ってくる事だけ” は無かったのに。



わ~た~し~の~ “ファーストキス” がぁ~~っっ

幼女の貴重なファーストキスを、

こ、こんな変態野郎に安売りしてもうたぁ~~っ!!!


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