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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第4章  5歳児は達観する

「どこの “闇取引・ロリDVD” だ!」と突っ込みどころ満載のタイトルを述べた龍一郎に、盛大に吹き出したココはそれでは収まらず、

未だ華奢な躰を苦しそうに縮こまらせながら、むせ始めた。

「ああ、飲み物、飲み物……って、これはダメか」

ビーチベッドの傍、小さなテーブルに置かれたシャンパングラスを持ち上げた男は、そう自分で突っ込みを入れ。

何を思ったか、ひょろっと長い指先でイチゴを摘み上げていた。

(土曜のまだ明るい内から “昼シャン” だと~~っ!? このブルジョワジーがっ!)

己の蓄えで贅沢をしている龍一郎に対し、てっきり親のすねを齧っていると思い込んでいる庶民派なココは、

涙目ながらも容赦無い剣呑な眼を向けた。

「ほら、イチゴ、よく噛んで飲み込んでごらん?」

自分のオレンジジュースは飲み干していたココは、しぶしぶ口元に寄せられたイチゴにカプリと齧り付き。

言われた通り、小さな口内でしっかり咀嚼して飲み下せば。

酸味の少ない瑞々しい果汁に咽喉が潤い、何とかむせていた咳は止まった。

しかし、ほっとしたのも束の間。

「ココたん、おくち、汚れてまちゅよ~~?」

もう酒に酔ったのか、そんな幼児言葉で顔を寄せて来た龍一郎。

「ふぇ……?」

全面ガラス張りの窓から夏の日差しが燦々と差し込んでいた筈のそこに、陰が生まれて。

「涼しい」と思った直後には、唇に濡れた感触を感じていた。

「んっ や……んっ」

思わず漏れた、甘い吐息――に聞こえそうな、拒絶の声。

ひと舐めで果汁など舐め取れただろうに。

まるで桃色の小さな唇自体が、美味しい果実だと言わんばかりに、何度も舌を這わせ。

仕舞いには「ちゅ~~」と吸い付いた龍一郎。

腕の中の小さく柔らかな肢体を抱き寄せると、若干 口汚く心の声を吐露したのだった。

「あ゛~~っ クッソ可愛い! 死ぬほど可愛いっ!!!」

「……~~っ」

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