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義父との秘密
第4章 囚われて
 和美は最後の望みを、そのチャンスにかけた。
 その瞬間、肩がつかまれ引き寄せられた。


「どこへ行くんだね、和美?会場はこっちだよ。」


 中に入ったと思っていた忠良だった。


「えっ!?お義父様。あの、皆様をお待たせしているんじゃ?」


「あぁ、少しだけね。これくらいなら待たせた内に入らないよ。行こうか!」


 逃げようと身構えたが、ガッチリと両側を堅められ、和美は重い足取りで歩きはじめた。
 会場の中に入り、そのまま上座のテーブル席へ案内された。


「おお、久しぶりですねぇ、藤原さん。おや、この美しい女性は?」


「あぁ、会長。お久しぶりです。この美人は、私の息子の嫁で、和美といいます。跡取りが出席出来ないんで、代わりに嫁を連れて来たんですよ。」


 親しげに話す忠良と、業界関係の大物らしい人物が、和美をあれこれと品定めをはじめた。
 その後も、和美は引き回され紹介された。
 逃げ出すチャンスを失った失望感と、これで夫は社長になれるという奇妙な安堵が、彼女を包み込み、和美から思考と行動を奪った。


「本日ここで、一つ我社の重大発表をしたいと思います。この度、わたくしの後継者として、不肖の息子、忠雄を役員として迎え、二年後には社長として跡を継いでもらいます。」


 いきなりの発表に会場がざわつき、驚きが満たした。
 いつの間にか、会場の舞台上に立ち忠良は、会社の役員に忠雄を迎えることを発表していた。


「なお、本日は忠雄の代わりに、忠雄の妻、藤原和美がここに同席しております。」


(えっ、ここで?)


 驚きながらも、正面に向かって、お辞儀をしていた。
 テーブルに戻り、しばらくして最初に秘書の冴子が、続いて忠良が姿を消した。


「あの、麻奈美さん。お義父様と冴子さんは?」


 少し、気になり聞いていた。


(だめよ、帰って来ないんならチャンスよ。)


「えっ、社長ですか?多分、控室ですね。もう少ししたら、戻ってらっしゃいますから。もう一つ発表がありますから。」


(ふふ、逃げだしたいんでしょ。私も、すぐにいなくなるわよ。あなたにチャンスがくるのよ。ふふふ、最後のチャンスよ。)


 麻奈美の顔に冷たい微笑が浮かんだ。
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