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春うらら
第9章 麗と誠
「ひと駅なので歩いてもいいですか?電車より歩くほうが、好きなので。
上映開始時間は大丈夫ですか?」
俺はつないだままの左手を少し上げて時計を確認して大丈夫だよと声をかけ歩き始めた。
ゆっくりと彼女のペースで歩く。映画館まで徒歩15分少々、彼女と今から見る映画について話しながら歩いた。まぁ俺は相槌くらいしかしてないが。彼女の声のトーンと話すスピードがとても気持ちよく響いて、いつの間にか邪な気分はすっかり落ち着いていた。
彼女は本当に人混みが嫌なようで、映画館についてもすぐに席に移動した。
案内された席は…坂口さん、これはちょっとやりすぎじゃないか?
と思うほどいい席で正直焦った。彼女はなれた感じで「いつもこの席なんです。映像も音もとってもいいんですよ」と満足そうに微笑む。
映画館の中で一番の特等席。一般席を見下ろすVIP席のような作りで同じスペースには2席しかない。でも隣は空席のようだ。なんだか照れくさくなって飲み物を買いに席を立った。彼女も誘ったが、パンフレットを見て待つというので一人で売店へ向かう。