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Blindfold
第16章 この恋に気付いて
「おっと…!?」
聞こえてきた男の人の声。
それと同時に、店長が桜!と叫んでいた。
「大丈夫ですか…?」
腰を強打すると思って強張らせていた身体。
予想に反して痛みはなく、目を開けると、そこには逆さまの人の顔があった。
サラりとした黒髪が風で靡いている。
整った顔立ち。
私は彼を知っている──
「大丈夫か桜っ…!」
「あっ…」
店長の声で我に返った私は、声を上げた。
「すっ…すみませんっ……」
ぼんやりして、彼に両脇を抱えて支えてもらっていることにすら気付かず、私は無理に起き上がろうと力を入れた。
そんな私に彼は手を貸して立つのを手伝ってくれた。
「ありがとうございます…っ」
彼の黒いスーツと、私のワイシャツが掠れる。
それがきっかけとなって、脳内の記憶が呼び起こされた。
あれは、病院での事。
店長が入院して、そして、店長の病室からお姉ちゃんのところへ行こうとしていた時の廊下で…
────────申し訳ない……
微かに服と服が触れ合って、彼は空(くう)を見つめながら、私にそう言った。