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Blindfold
第25章 尊さ
全ての片付けが終わると、葵は終電がーーと言いながら慌ただしく店内を走っていた。
「お、お疲れ様でしたーーー!」
こちらのおつかれ、という返事を聞く間もなく、葵が去ると、扉についたベルのカランという音だけが虚しく響いた。
私と店長だけ。
変な空気が広がって、戸惑う。
ひとまず、ふぅと息を吐いて私はカウンターの椅子に腰掛けた。
チチチとライターの音が聞こえる。
タバコに火をつけているんだろう。
様子を伺いたくて店長の方にチラと目を向ける。
別になんでもありませんって態度でタバコを蒸しているその姿。
みんな、私だけじゃなく店長も分かりやすいって言ってたけど本当だろうか。
そんなこと思ったことないし、むしろ分からなくて困ることばっかりだっていうのに。
「店長………」
「ん」
「いつ、どの瞬間で、私のこと、好きになったんですか…?」
聞きたかった質問。
みんな大分前から店長が私のことを気にかけてくれてた、みたいなこと、言ってたけど、正直そんな場面なかった、はずだ。
タバコを吸う手が止まる。
そっぽを向いていた店長はゆっくりと私の方を見た後に軽く項垂れた。
「…………聞いてどうするんだよ」
「どうもしないけど………」
こういうの、気になる、じゃん。
再びタバコを咥えた店長は、んん……と小さく唸った。