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Blindfold
第25章 尊さ
「別に…明確にいつ、とかねぇよ」
「……明確じゃなくてもいいけどさ」
タバコの灰が落ちそうになっている。
私は周りを見て灰皿を見つけると、そのままカウンター越しに店長の前に差し出した。
「もういいから、帰るぞ」
「……はぐらかさないでよ」
「そんなのいちいち覚えてねぇだけだ」
そういうもんだろうか……。
聞きたかったけど聞き出すのはこれ以上は難しそうで、口をつぐむ。
なんかの機会に聞き出せるだろうか……。
今度また幸さんに聞いてみよ。
そんなことを思いながら、椅子から降りると、視界の隅で何かが動いたのを感じた。
え………
う、そでしょ。
恐る恐る動いた先を見ると、案の定、恐ろしい生き物が触覚をチロチロと振り回している。
「て、て、んちょ、ぉ…」
「なんだ」
カウンターから店長が出てきたのと、ゴキブリが動いたのは同時だった。
むりっ………!
思わず大声で悲鳴を上げて、店長に駆け寄って腕を掴む。
「な、なんだよ、急に!」
「ゴ、ゴ、ゴキっ……」
滲んだ涙のせいで店長の顔がうまく見えない。
怖すぎるせいで店長の腕を掴む力が強まる。
状況を把握したのか、店長はあーと呑気に言って私の視線の先を見た。