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Blindfold
第29章 スミレ
「弟……」と小さな声で反復した悠は、ハッと思い付いたような顔をすると、またいつもの通り余裕そうな顔をしてフフっと笑う。
「あのちょいワルオヤジ、こんなところに身内置いて、桜のこと見張ってるの?」
「………拓也さんは元々ここで働いてるの」
「へぇ。にしても、どう考えてもちょいワルオヤジの方が兄貴って感じだけどね」
そう言ってチラッと拓也さんの方を再び見た悠は、「わかったわかった」と返事をして、グラスに口を付ける。
「『今日は』手を出さないでおくよ」
その気になればどうにか出来そうなそんな言い方に、思わず「はぁ?」と声を上げる。
「スミレのラストだし、お祝いにシャンパン入れるよ」
「いらない」
「つれないなぁ。それがまたいいけど」
そう言って笑った悠は、本当に拓也さんにシャンパンを頼む。
拓也さんは大人の対応でかしこまりましたと言うと、私の耳元に近付いてきた。
「なんかされたら言ってね」
「………ありがとうございます」
優しく微笑んで去っていく拓也さんに私は頭を下げた。
「今夜はとにかく飲もう!」
呑気にそんなことを言う悠に、はぁとため息を吐く。
どうせ今日で最後だし、とことんこいつから巻き上げてやる。
そんなことを思いながら、私はしばらく悠の相手をしていた。