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余熱
第1章 崩れる
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「おーい、起きろー葉月ー、おーい」
優しくて柔らかい、聞き慣れた声。
ゆっくり目を明けると、心配そうな祐の顔と、湿布や消毒薬の匂い。
「お〜よかった。おはよう。もう下校時間だから帰ろ。」
祐のほろほろと綻ぶ顔を見て、わたしの心もほどけていく。
やっと、わたしの中で猛威をふるっていた嵐がおさまった。
「祐…」
名前を呼ぶだけで心があたたかくなる。
「ん?どうした?」
「…さみしかった。」
自然に名前を呼び、自然出てきた言葉だった。
「…ごめんな。腹減っただろ。帰って飯食お。」
飯…?
そういえばさっき、下校時間って…
急いで時計を見ると、時計の針は6という数字を指していた。
「えぇっ!?もうこんな時間!?」
ベッドから飛び起きて、急いで支度をする。
「ははっ、3時間目からずっと寝てたんだってな、葉月にしては珍しいな。」
帰路につき、祐との他愛もない会話に心が満たされていく。
「徹夜して、気持ち悪くて朝ご飯食べなかったら、体育の準備運動の時点で倒れちゃったらしい。」
「徹夜?なんでまたそんな珍しいこと。」
「なんで…?そ、それは…」
あ…言えない…
「あの…えっと…体調…悪くて」
「昨日も!?大丈夫かよー… 昨日の夕飯はちゃんと食ったの?」
「うん、コンビニのサンドウィッチ…」
それからの会話はあまり覚えていない。
ーー祐に言えないことができた。
頭の中にあることが素直に言葉にならないのは初めてだった。
心から心配してくれる祐に対して、それをあしらうようにして、本当のことを言うのをやめてしまったーー。
その罪悪感に苛まれ、昨日熱くて苦しかったところが疼いた。
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