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余熱
第10章 深まる
まるで瞼の裏を焼くかのように熱い涙が、瞬きと一緒に弾き出された。
先生はそんなわたしを抱き締める。
その腕には徐々に力が込められ、息苦しくなる。
そのように抱き締められると、ある錯覚に陥りそうになる。
「葉月…ごめん…
泣かないで…。」
さらに、耳元に伝わってきた、言葉の初めと終わりとが切なく掠れる声。
――錯覚に陥るしかなかった。
息の根を止めようとしているのではないかと思うくらいの強さでわたしをかき抱き、
甘く上擦った声でわたしの名を呼び、慰めるこの男は、
わたしのことを愛しているのではないか、という錯覚――。
胸がひどく締め付けられる。
きつく抱き締められているからなのか、
それとも――。
「…でも」
先生の声色から、ふっ、と切なさが姿を消した。
埋めていた顔を離すと、わたしは先生の視線に絡め取られる。
「そんなこと言われたら、
止めてあげられなくなる…。」
そう言って、少し顔を歪める先生。
また胸が苦しくなる。
――抱き締められていないのに。
「止めなくて、いいです。」
まるで呼吸をするかのように、
――まるで祐に向けるかのように、
何の滞りもなく出てきた言葉だった。本心だった。
「…本当に…」
先生の両腕が、わたしの顔の両脇に置かれ、唇が重ねられる。
そして先生は、
「言われなくても止められないから…
頼むから、これ以上煽るな。」
と、余裕など全く無さそうに言ったのだった。