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余熱
第11章 横切る

強い西日が頬を焼く。
すっかり夏だった。
もう随分長い間外に出ていないような気がした。
肌を撫でるぬるい風も心地よく感じる。
気分が乗ってきて、散歩がてらに塾の近くのコンビニまで歩いた。
いつも授業の前に夕食を買っているコンビニだ。
ガラスの扉を押し開けると、よく効いたエアコンといつもの来店音。
そして、レジの前には見覚えのある落ち着いた佇まい。
「あ、下川先生。」
「え…っ、も、森さん…こんにちは…」
あれ、いつもの下川先生の挨拶じゃない。
わたしの姿を捉えた彼女の瞳は明らかに動揺していて、先ほどの風情が崩れていく。
レジ袋を慌てて受け取って視線を足元に落としたまま、
目を合わそうとせずにわたしの横を通りすがる彼女から、
――あの紺色の香りが漂った。

