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余熱
第2章 揺れる
その時、月の明かりがふわっと濃くなった。
ピアノの椅子の下に跪いている筈の男の姿は、やはりなかった。
ーーじゃあ、“高田くん”って…
少女の紅潮した頰、濡れた目、上ずった白い顎、首筋が照らされて、少年は釘付けになる。
いつも結んでいる栗色の髪は下ろされ、身を捩るのに合わせて揺らめき、少年の心もそれに合わせて揺らめく。
「あぁ…っ…や…っん、そんなとこ…っ、だめ…っ…高田くん…っ」
自分を呼ぶソプラノが、少年の耳で甘く響く。
極めて幻想的な快感が彼を襲った。
見ているだけなのに、下腹部が張り詰めてじんじんと痛い。
見ているだけなのに、膝が砕けてしまいそうだ。
見ているだけではなく、彼女に触れたら、彼女はーー。
膝が役目を果たし切れなくなり、こつん、と扉に触れてしまった。
ーーしまった……!
彼女の声がぴたりと止む。
あたりは、きりきりと痛いくらいの静寂に包まれた。