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余熱
第4章 滲みる
教室に一人、取り残される。
教室の扉の向こう、階段を降りていく生徒たちの喋り声も遠ざかっていき、静寂が訪れる。
わたしの心だけがざわついていた。
ーーあ、祐に何も言ってなかった。
きっともう、塾の前まで迎えに来てしまっている。
急いでスマホを取り出し、祐に電話をかける。
「おう、どうした?」
祐の声を聞くと、さわさわと揺れいた心が落ち着いた。
「あ、祐、えっとね、今日なんだけど、その…」
ーーあ…まただ…また嘘を吐かなきゃいけない…
今から補習を受けることは、言えない。
先週の金曜日も、今週の月曜日も塾に行ってないということすら、言ってない。
嘘がまた、積み重なる。
落ち着いたと感じたはずの心に、黒い汚れがまた一つ、ぺたりと貼りついていった。
「…お父さんが…迎えに来てくれることになって…だから、もう迎えに来てくれてるのに悪いんだけど…今日は一緒に帰れないの…ごめん」
「そっか、分かった、じゃあおやすみ。」
「うん、ごめんね…おやすみ。」
最近祐には嘘を吐いてばっかりだし、謝ってばっかりだ。
以前のように、素直に何でも話せる関係には、もう戻れないのかな。
いや、祐は今まで通り接してくれる。
変わったのはわたしだ。その関係を壊したのはわたしだ。
大切なものは、失ってみて始めて、その大切さに気付くのだ。