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余熱
第1章 崩れる

「はいはい、すみませんすみません」

午後七時十分。

教室に先生が平謝りしながら、また速足で入ってきた。

――さっきといい、今といい、落ち着きのない人だな。

先生は教壇に駆け上がると、


「えーっと、
今日からみなさんの数学の授業を担当することになりました、
高田 啓輔と言います。
よろしくお願いします。」


そう言って一礼した。

さっきの間抜けな先生を思い出してしまうから、かしこまっている先生は何だかおもしろい。


「さて、では早速ですが授業を始めます。
えー、このクラスは数学の得意な子たちが集まっていると聞いたので、どんどん問題を解いていきたいと思います…」


そう言って先生はテキストのページをぺらぺらとめくりながら、スーツの胸ポケットから黒縁の眼鏡を取り出し、装着した。


その瞬間だった。


彼の纏う空気の色が変わるのが分かった。


テキストから顔を上げた彼は、明らかにほんの数十秒前の彼ではなかった。


そして、黒板に向かおうとする彼の切れ長な視線が、刹那わたしを捉えた。

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