この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
余熱
第6章 嵌まる
ーーブーッ、ブーッ…
翌朝、頭上からバイブ音が聞こえて、うっすらと目を覚ます。
一定のリズムで震えるそれは、どうやら葉月の制服の中にあるスマホのようだった。
しばらくして振動が止むと、
「…葉月?」
ポケットの中から声がした。
心臓が跳ね上がる。
どちらかというとトーンは高めで、少しばかり掠れていて、
そして何より、男の俺でもどきっとしてしまうくらい、極上に甘い問いかけだった。
直感で分かった。
声の主は、“祐”であるとーー。
「まだ寝てんのか?
まぁ疲れてんのかもしれないけど、一日無駄になるから、午前中には起きろよ。
今日スタジオで練習することになって、夜まで帰ってこれない。連絡も、すぐには返せない。
母さん一日中家にいるらしいから、もし今日家に一人だったら、ご飯食べに来ていいからな。
すぐ返せないけど、何かしら返事くれよ。
…心配だから。
じゃあな」
ぷつり、とくだけた口調の甘い声が途切れた。
彼のメッセージが終わってからも、俺はそのポケットを見つめながら、暫くぼうっとしていた。
彼もまた葉月に惚れているーー。
そう悟らざるを得なかった。
そしておそらく、二人はお互いに、甘い声を交わす原因が恋心であることに気付いていないのだ。
むずがゆい苛立ちとともに湧き上がった、ほんの出来心だった。
ハンガーに掛けておいた葉月の制服のネクタイを掴み取る。
そして、あどけない顔で眠る彼女の閉じられた瞼を、それで覆い、視界を奪った。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


