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余熱
第6章 嵌まる

ーーブーッ、ブーッ…


翌朝、頭上からバイブ音が聞こえて、うっすらと目を覚ます。

一定のリズムで震えるそれは、どうやら葉月の制服の中にあるスマホのようだった。

しばらくして振動が止むと、



「…葉月?」



ポケットの中から声がした。


心臓が跳ね上がる。


どちらかというとトーンは高めで、少しばかり掠れていて、

そして何より、男の俺でもどきっとしてしまうくらい、極上に甘い問いかけだった。


直感で分かった。


声の主は、“祐”であるとーー。


「まだ寝てんのか?

まぁ疲れてんのかもしれないけど、一日無駄になるから、午前中には起きろよ。

今日スタジオで練習することになって、夜まで帰ってこれない。連絡も、すぐには返せない。

母さん一日中家にいるらしいから、もし今日家に一人だったら、ご飯食べに来ていいからな。

すぐ返せないけど、何かしら返事くれよ。

…心配だから。

じゃあな」


ぷつり、とくだけた口調の甘い声が途切れた。

彼のメッセージが終わってからも、俺はそのポケットを見つめながら、暫くぼうっとしていた。


彼もまた葉月に惚れているーー。


そう悟らざるを得なかった。


そしておそらく、二人はお互いに、甘い声を交わす原因が恋心であることに気付いていないのだ。


むずがゆい苛立ちとともに湧き上がった、ほんの出来心だった。


ハンガーに掛けておいた葉月の制服のネクタイを掴み取る。


そして、あどけない顔で眠る彼女の閉じられた瞼を、それで覆い、視界を奪った。


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