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余熱
第8章 欲する

“ちゃんと言ってくれなきゃ、分からないよ”


化学の先生の言葉が、わたしの耳から脳へと伝わって、こだまする。


沙月は先生の耳元で何かを囁いたが、わたしは聞き取れなかった。


先生の右腕が動き始め、沙月の声が艶を増していく。


その光景に、辺りに響き渡る音に、私の体はどんどん熱を帯びていく。


しかし一方で、脳に溜まった熱はすうっと収まっていくような気がした。


――そうだよね。

言わなきゃ、分からないよね。


今までだって、正確に言えばちょっと前までだけど、

わたしと祐とは、決して以心伝心していたわけではないのだ。


お互いに素直に言葉を交わしていたから、分かりあっていたのだ。


キスの先がしたいってことも、

自分から言わなきゃ、この先ずっとこのまま何も変わらない気がする。


素直に何でも言い合えるあの関係を壊したのは、わたしの方だ。


修復するのだって、わたしがやるべきだ。


わたしはそっと理科準備室の扉から離れ、理科室を出ると、急いで教室へ戻った。

そして、いつもの柱へ向かった。
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