この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
余熱
第8章 欲する

“ちゃんと言ってくれなきゃ、分からないよ”
化学の先生の言葉が、わたしの耳から脳へと伝わって、こだまする。
沙月は先生の耳元で何かを囁いたが、わたしは聞き取れなかった。
先生の右腕が動き始め、沙月の声が艶を増していく。
その光景に、辺りに響き渡る音に、私の体はどんどん熱を帯びていく。
しかし一方で、脳に溜まった熱はすうっと収まっていくような気がした。
――そうだよね。
言わなきゃ、分からないよね。
今までだって、正確に言えばちょっと前までだけど、
わたしと祐とは、決して以心伝心していたわけではないのだ。
お互いに素直に言葉を交わしていたから、分かりあっていたのだ。
キスの先がしたいってことも、
自分から言わなきゃ、この先ずっとこのまま何も変わらない気がする。
素直に何でも言い合えるあの関係を壊したのは、わたしの方だ。
修復するのだって、わたしがやるべきだ。
わたしはそっと理科準備室の扉から離れ、理科室を出ると、急いで教室へ戻った。
そして、いつもの柱へ向かった。

