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悪戯な思春期
第2章 重ねた王子様は微笑んで

 戸惑う私の頬を節々しい西の手が触れる。
 ぬぐい取られたクリームが西の手の甲で艶めく。
 ようやく事態に気づいた私は、クリームを目で無意識に追う。
(それをどうするの? ティッシュは目の前にあるのよ)
 内心期待しつつ、西の反応を見張る。
 瑠衣なら、瑠衣ならセクシーに舐めとるだろう。
 西はどうする。
 私はいつの間にか瑠衣と西を比較していた。
 今までしてきた拒絶のラインを計るためではない。
 そうでなければ西に飲まれてしまいそうだったから。
「……見過ぎ」
 西が低く響きの良い声で言った。
「あ、ごめん」
 急いでフォークをくるくる回す。
 水音がしたのは一瞬後だった。
 何かを舐めるみたいな水音。
 顔を上げては負けてしまう気がした。
 きっと西の伏せ目がちな仕草に心を奪われてしまう。
 それが怖かった。
 だから、パスタとクリームが絡まるのを見て心を落ち着かせようとした。
「はははは」
 だが笑い声に咄嗟に視線を向けてしまった。
 手の甲を外し、唇の端を舐める彼の姿に。
 悪戯な笑みで西は尋ねる。
「どうか、した?」
(うん。どうかしちゃったみたい)
 ブンブン首を振って、残ったパスタをガッツく私はどう見えただろう。
 西は始終クスクス笑っていた。

 食事を終え、紅茶を用意したものの、沈黙が空間を支配していた。
「……」
 西は膝の上に頬杖をして、ぼんやり外を見ていた。
 焦っているのは私一人だ。
 西は思い出したように立ち上がった。
「電車の時間があとニ十分しかない」
「あ、うん。行こっか」
(……あれ? 行く気なの私)
 西は格別な瑠衣スマイルで私を助け起こし、玄関にエスコートする。
 身長差のせいで西の胸元が近かった。
 西は後ろで私の靴選びを眺めていた。
 春先だからブーツで迷ったのだ。
 結局今のショートパンツに合わせて、焦げ茶色のロングブーツをセレクトした。
 西が出た後に鍵を閉める。もう、後戻りは出来ない気がした。
「あのさ……」
「急ぐよ」
 有無を言わさぬ口調と共に手を掴まれ走り出す。
 コンクリート舗装の道とはいえ、ブーツで走るのは酷だ。
 しかし、私は不平を言えなかった。空気を壊したくなかった。
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