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悪戯な思春期
第1章 テレビの向こうの王子様

(超絶マッハで格好良い…)
 私は静かにスプーンを置いた。歌に集中するために。

「CRAZEでしょ、聴いたよ」
 翌日登校早々、昨晩の話を持ち出した私を容易く遮り、美伊奈は言った。
 美伊奈の声は女性アイドルユニットのインタビューみたいに、いつでも高く可愛い。
「瑠衣、本当にすきなんだねぇ」
 呆れたようにクシャクシャと頭をいじってくる彼女を防ぐ。
 小学校来の幼なじみの美伊奈は、 "瑠衣好き"に引かない貴重な友人だ。
 パーマをかけた茶髪をクルクルに巻いて、毎日クラスの注目を集めている。
 部活も無所属だというのに、異様な人脈の広さの秘密は誰も知らない。
「新曲ヤバくない? しかも昨日のサプライズなメッセージタイム!」
「ヤバくない」
 朝の豆テストを淡々とこなしながら美伊奈は乾いた返事だ。
 幾分気を削がれつつも、私は喜びを分かち合うために必死に話を続ける。
「悶え死んでしまう快感、だよ? こっちが死にそうな位の美声でよく言うよねー…あぁ、CRAZE聴きたい」
 美伊奈は頬杖をつき溜め息一つ吐くと、ポケットから何か取り出した。
 突然右耳に何かが差し込まれて、背中が反応する。
「ナニ? イヤホンに感じてんの?」
 そんな私を観察して彼女は艶やかに笑う。
 朱くなる顔を面白がってるのだ。
「違っ……うああああああ」
 美伊奈のグロスがかった唇がつり上がる。
 私の叫びの意味を知っているのだ。
「ク、CRAZE!」
「そぉだよ。聴きたがってたからさ。椎名、あんたまだ音楽プレイヤー持ってないんでしょ」
 事実だ。
 両親がいない生活で、限界の生活費の中で、逆立ちしても音楽プレイヤーを買うお金はない。
 美伊奈は暫く口をパクパクさせて喜ぶ私を眺めていた。
(本当にS様だよ…)
 それに気づきつつも、大事な四分間を瑠衣の声だけに使う。
 今回の新曲はバイオリンをバックに用いた、バラード風なものだった。
 とは言え、中盤になると切ない恋にもがく心情を瑠衣が叫びに近い声で熱唱するので迫力は文句無しなのだ。
「どうだった?」
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