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悪戯な思春期
第1章 テレビの向こうの王子様

 ニヤツきながら美伊奈が訊く。
「……最高」
「あはは。あたしも今回のはお気に入りなんだぁ。瑠衣にしちゃロマンチックだしさ。ほら、早く鞄片付けないと、二分後始まるよ」
 時計を見ると、一限目がカウントダウンを始めていた。
 廊下を一瞥し、教師の影を確認する。
(まずい……予習まだだ)
「椎ちゃん」
 焦って数学の用意をしていると肩をたたかれた。
 天使の笑みを浮かべた魅美が立っていた。
 数学のノートを差し出し笑って言った。
「数学の予習まだでしょ?」
「ありがとう魅美ちゃんマジ天使!」
 私はポケットから苺飴を引き出して魅美の手の中に忍ばせた。
 クスリと笑って席に戻る彼女が時計を示すと、一分も無かった。
 慌てて荷物を整理する私の耳に、後ろの席の美伊奈のクックッという笑い声が聞こえた。

 昼食の時間、私は生徒会の仕事のため早々と教室を出た。
 定員に満たなかったため補充選挙で呼ばれたのだが、遅れながらも入った生徒会メンバーはみんな優しくて好きだった。
 受験生になり、残り二カ月の任期を今は全力で過ごしたいと思っている。
 早歩きで闊歩する背後から低い声で「天草さん」と呼び止められた。声の主はクラスメートの西雅樹だった。
 気怠そうにポケットに手を入れ立つ彼は、目だけ嫌に真っ直ぐこちらを向いている。
「西君……? なんか用?」
「天草さんってMだよね」
(なんつった今)
 私は気持ちを鎮めて聞き返した。
 さっきのが聞き間違いか幻聴だと信じて。
「今なんて?」
 西は二つの意味でクラスで浮いている。
 一つは天才的な頭の良さとその奇行。
 奇行と言っても時折威風堂々とボイコットする位だが、成績が優秀な分教師も注意を諦めた。
 もう一つはルックスだ。
 正直瑠衣に似ている。
 悔しいほど長く濃い睫。
 百九十越えの身長とバランスよい体格。
 妖しく垂らした前髪。
 文句のつけようがない美形。
 西とは三年生で初めて同じクラスになったが噂は聞いていた。
 集会の時もすぐ見つけてしまう存在だった。

 瑠衣に恋してからその辺の男子と話しているのが面倒臭くなった。
 ショートヘアフェチの多い学年らしく、休み時間の度「天草さんの髪型って良いよな」だの「サラサラヘア彼女に欲しいわ」だの下らない冗談を言われてきたのだ。
(お前らが瑠衣位格好良いなら、な)
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