この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
悪戯な思春期
第1章 テレビの向こうの王子様
ニヤツきながら美伊奈が訊く。
「……最高」
「あはは。あたしも今回のはお気に入りなんだぁ。瑠衣にしちゃロマンチックだしさ。ほら、早く鞄片付けないと、二分後始まるよ」
時計を見ると、一限目がカウントダウンを始めていた。
廊下を一瞥し、教師の影を確認する。
(まずい……予習まだだ)
「椎ちゃん」
焦って数学の用意をしていると肩をたたかれた。
天使の笑みを浮かべた魅美が立っていた。
数学のノートを差し出し笑って言った。
「数学の予習まだでしょ?」
「ありがとう魅美ちゃんマジ天使!」
私はポケットから苺飴を引き出して魅美の手の中に忍ばせた。
クスリと笑って席に戻る彼女が時計を示すと、一分も無かった。
慌てて荷物を整理する私の耳に、後ろの席の美伊奈のクックッという笑い声が聞こえた。
昼食の時間、私は生徒会の仕事のため早々と教室を出た。
定員に満たなかったため補充選挙で呼ばれたのだが、遅れながらも入った生徒会メンバーはみんな優しくて好きだった。
受験生になり、残り二カ月の任期を今は全力で過ごしたいと思っている。
早歩きで闊歩する背後から低い声で「天草さん」と呼び止められた。声の主はクラスメートの西雅樹だった。
気怠そうにポケットに手を入れ立つ彼は、目だけ嫌に真っ直ぐこちらを向いている。
「西君……? なんか用?」
「天草さんってMだよね」
(なんつった今)
私は気持ちを鎮めて聞き返した。
さっきのが聞き間違いか幻聴だと信じて。
「今なんて?」
西は二つの意味でクラスで浮いている。
一つは天才的な頭の良さとその奇行。
奇行と言っても時折威風堂々とボイコットする位だが、成績が優秀な分教師も注意を諦めた。
もう一つはルックスだ。
正直瑠衣に似ている。
悔しいほど長く濃い睫。
百九十越えの身長とバランスよい体格。
妖しく垂らした前髪。
文句のつけようがない美形。
西とは三年生で初めて同じクラスになったが噂は聞いていた。
集会の時もすぐ見つけてしまう存在だった。
瑠衣に恋してからその辺の男子と話しているのが面倒臭くなった。
ショートヘアフェチの多い学年らしく、休み時間の度「天草さんの髪型って良いよな」だの「サラサラヘア彼女に欲しいわ」だの下らない冗談を言われてきたのだ。
(お前らが瑠衣位格好良いなら、な)