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悪戯な思春期
第3章 王子様の刺客は忍者
「熱い時間を過ごしたの? 生徒会サボってまで」
「……っあんた聞いて」
頭をフォークで小突かれる。
「奈々宮がショボーンてしてたじゃない。彼女に振られたみたいにさ」
不意に美伊奈が目を上げ、何かに気づいたように乗り出していた身を戻した。
振り返ると数学教師が教壇に立っていた。不吉なプリントの束を整えながら。
「……やば」
美伊奈を含む何人かが顔を歪ませる。
月に一度の抜き打ちテストなのだ。
腐っても受験生の身の上、センター過去問を事務的に配る彼は私たちを応援してるのだ。
決して嘲笑ってるのではない。
だが、回ってきたプリントに眩暈が隠せない。
(次の三次関数の任意の一点Pを……)
(眠い……)
(眠ったら死ぬぞ!)
(しんでいいよ)
気だるくペンを回すが、段々脳が冷えて解法が見えてきた。
腐っても生徒会役員。
クラス次位は落とせない。
気合いを入れてペンを走らせる。指に力が入り、小気味よい音と共に数式が列を成してゆく。
ちなみに一位は雅樹。
学年一位。
チャイムが鳴った。
教室のいたるところで溜め息が聞こえ、次にペンを投げ出す音が木霊する。
「ふぅ……」
なんとか全問間に合った。
最後の微分と数列の混合問題は難題だったが、なかなかの結果を期待できそうだ。
「お疲れ様」
教師が出て行くと同時に美伊奈がそばに来る。
トンと私の問題用紙を叩くと、解法の確認をしてくる。恒例の儀式みたいなもんだ。
「問7できたの? さすが椎」
「……略すな」
しばらく美伊奈と答えを確認しあって席を立つ。
見かけと真逆に美伊奈は効率の良い解き方の手本なのだ。
難題は解けなくとも八割は必ず完答するのは、ある意味才能だ。
トイレから出て、水道で手を洗っていると、背後から気配を感じた。
相手が此方を伺っているのを確認し、勢い良く睨みつける。
全く反応なく立ち尽くす人物は、まるで彫像だ。
「……瓜宮」
長い前髪で片目を隠した妙な存在感。
金の三連ブレスレット。
顔はシャープで、折れそうな程細い彼は静かに此方を見つめていた。
「千夏くん?」
語彙を強めると、少しだけ首を傾けた。
その仕草が犬みたいで、つい頬が緩む。