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悪戯な思春期
第3章 王子様の刺客は忍者
「何か用?」
「……天草さんてさ」
(Mだよね)
デジャヴとはこのことだ。
私は嫌な予感を感じながら瓜宮を窺う。
当の本人は言葉を探すように間を空けて焦らす。
「ああいうことするタイプなんだ?」
ぞくりと寒気が走った。
それ程彼のトーンの変わりようが恐ろしかったのだ。
隠れた右目が光って睨みつけているような錯覚さえ覚える。
「なん……の話」
だが、返事はいらない。
(瓜宮情報だと二人が屋上に登るところ見られてたみたいよ?)
多分彼は知っている。
雅樹と一緒にいたことを。
それだけではないかもしれない。
屋上に上がってきたのが瓜宮だとすれば、声は聞かれたかも知れない。
途端に私は心臓を掴まれた。
恐怖心に。
「そんなに怯えないでよ。僕も確信はしてなかったんだから」
小さく控えめな声は正しく瓜宮千夏そのものだ。
どうしてこんなに不安なのだろう。
悪寒が止まらない。
「確信?」
その言葉が引っかかった。
「確信。天草さんがなにをしていたか」
(……なにいって)
「僕が階段を上がると隠れたよね。煙草でもやってる先輩かと思ったんだ初めは」
予鈴が鳴る。
しかし二人は一歩も動かない。
「でも今の反応からすると…異性と危ないことしてたんじゃないかな」
そう言ってまた首を傾げる。
今度は犬なんかに見えなかった。
雅樹が魔王なら、瓜宮は天の邪鬼。
チャシャ猫だ。
汗が額を伝う。
「見……」
急いで口をつぐんだ。
(見たの? そんなん訊いたらヤってましたって言ってるもんじゃん)
(しねえぇぇぇ! そん……そんなあからさまに言う奴がいるか!)
(じゃあ口止めせずに授業行くか?)
(学校でサカってたのお前だぞ)
(襲われたようなもんでしょ!)
(瓜宮の言葉を人は信じるんだよ。面白いからな恋愛沙汰なんざ)
「ねぇ? 何考えてるの?」
すっかり授業移動の生徒たちもいなくなり、シンとした廊下に向かい合っている。
「授業始まるよ」
それでも動かない私に業を煮やしたのか、瓜宮は冷たい手で腕を掴み引っ張った。
教室の方向ではない。
すぐに振り払おうとしたが、あくまでも彼も男だ。力が適わない。
「どこ行く気!」