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悪戯な思春期
第1章 テレビの向こうの王子様

 西は一度もそうした軽はずみな言動はしない。
 だからボイコットしようがハブられる対象にもならない。
 美男子は罪だ。
「Mでしょ?」
 そんな西にいきなりこの言われようだ。
(なんかした、私)
「何なの? 罰ゲームかなんか?」
 人気の少ない渡り廊下で西と対峙している今の状況が何とも間抜けだった。
 西は艶やかな黒髪をかきあげて、いやらしく笑った。
 何故か。
 目を細めて上目遣いで笑えばそれはもういやらしく見えたからだ。
(やばい……なんか混乱してる)
 ゆっくり歩み寄ってくる西に背中に冷たいものが走る。
 避けていた所為で久しぶりに話す男子の扱いがわからなくなっていた。
 それが伝わったのだろうか。
 西は三歩程手前で止まった。
「俺、さ」
(なんだ? なにを言う気なんだ?)
 知らぬ間に心臓を握り締めていた。
 顔も火照っていたことだろう。
 瑠衣と西が重なり異様な興奮を呼び覚ましていた。
「椎名が欲しくて」
 紛れもなく瑠衣の声だった。

 無我夢中だった。
 気づけば生徒会室の扉に背をつけて荒く息をしていた。
 仲間のメンバーが心配そうにこっちを見ている。
 走ってきたからか、脹ら脛がジンジンと痛んだ。
『椎名が欲しくて』
(ばっか……馬鹿じゃないの? いつフラグ立てたの? 立ててないでしょ。てか瑠衣と同じ顔で反則でしょ。本気になっちゃ……阿呆か自分)
「……さー。天草ー?」
 生徒会長の奈々宮が呼びかけていた。
「うん?」
「会議始めていいの?」
 忘れていた。
 昼休みに会議するからと焦って来たのだ。
 なんとか席に座り話し合いを始めるものの、全く集中出来なかった。
 それはそれは分かり易かったのだろう。
 会議後に会長に呼び出された。

 生徒会室脇の花壇にて会長と向かい合う。
 奈々宮千晴。
 私自身男と認識しないくらい、中性な人間だ。
 肩までの髪は校則をギリギリ破っていないが、女々しさを醸し出している。
 立候補者の関係で唯一会長に抜擢されたが、とてもリーダーには見えない。
 しかしその中身は逆で穏和ながらも厳しさを兼ね備えた指揮者資質を持っている。
「なんかあった?」
「……」
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