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悪戯な思春期
第1章 テレビの向こうの王子様

(西君にMだろ宣言されました)
 脳内では答えながらも馬鹿馬鹿しく感じた。現実味がないのだ。
「……はぁ。今日の議題は?」
 私は少し考えて答えた。
「野球愛好会の部への昇格について」
「それは先月のだ」
 まだ肌寒い四月。
 私はスカートの中で太ももをすり寄せた。
 気まずかった。
 会長と自分の周りでは桜吹雪が、それはもう美しいというのに。
 奈々宮は寒さを考慮して木々に守られた風下を選んでくれたが、足元を吹き抜ける風は防ぐことができない。
 私は寒さに耐えて返答どころではなかった。

『凍てつく冬の白化粧の中
 聖霊達を追い越して笑む
 僕らを止めるものなんて
 なにひとつ無いんだって』

「……ったろ。聞いてる?」
(はい、瑠衣の曲に気をとられてました。スミマセン)
「え?」
 奈々宮は呆れ果てたのか細い手をぶらぶら縦に振って、戻ろう、と溜め息混じりに言った。
 どうやら強制に追求する気は無かったようだ。
 私は孤独と安心に挟まれて校舎に戻った。

(教室で西と目合わせたくないなぁ)
 避けるとそれは来るもので、生徒会室から戻る最中に私は西と鉢合わせしてしまった。
「天草!」
「ぅわ……マジか」
 西の呼び方がワンランク変わっているのも気づかず、私は西の脇から逃げようとした。
 だが、瑠衣みたいに白い手に邪魔される。
(何から何まで瑠衣に似ているんだから……抵抗しづらいなぁ)
「……怒ってる?」
 西の顔が目の前にあった。
(うわわ、怒ってないから離れろぉ)
 間近で見た西の瞳は、藍色では無かったが引きつけられる何かがあった。
 慌てて目を剃らすが残像がちらつく。
 顎のラインが細く、唇は赤みがかっていた。
 軽蔑するほど苦手な髭は存在すら感じられなかった。
 爆発しそうな全身を抑えて、西をもう一度見る。
 睨みつけたつもりだった。
「……可愛い」
(瑠衣……瑠衣様の笑みだ。悶え死ぬ)
 一昨年の冬のインフルエンザを鮮明に思い出すほど顔が熱かった。
 こんな体感は今まで無かった。
 男子に、瑠衣じゃない一般の男子に興奮するなど。
「悶え死にそう?」
 西のいやらしい笑みが目の前にあった。
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