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悪戯な思春期
第5章 キャストの揃ったお城
「知りたい?」
雅樹が上体を寄せる。
いつも見上げてた彼が下から上目遣いに覗いてきたら直視など無理なわけで。
震える足で私は立ち上がった。
ふっと雅樹が笑う。
「椎名はかわいいなぁ」
「な」
風が吹いて雅樹の髪が舞う。
片目を隠した彼を見て、私は息が止まりそうになった。
瑠衣さま……。
違う。
違うのに。
なんでそこまで似てるんだろう。
髪をかきあげる指先もが。
風から零れて流れる前髪までもが。
「誰にも渡せないなぁ」
屋上全体がパアッて光ったみたいな。
そんな世界が通り過ぎた。
雅樹の低い声がまだ大気を揺らしてる。
欲張りな私の耳はその余韻にしがみつこうとぴんと立つ。
「雅樹ぃ……」
求める前に抱き締められてた。
額に優しくキスをされる。
「俺さ……絶対勝つから、他の選手なんか見る隙も与えないから」
「……うん」
「それで、試合終わる毎に椎名をぎゅーって抱き締めるから」
「うん」
「全部済んだらどっか行こう」
「うん!」
私が頭を上げると、丁度逆光で雅樹の顔が見えなかった。
ただ、その持ち上がった唇から、どちらなのか判断するなど不可能で。
私はまだ、重ねてるんだろう。
その事実に、冷めてしまった。
気がした。
「一回戦はどっちが勝つかな」
「絶対奈々宮会長を破る奴なんか現れないって」
「でも噂だとさ、相手は全国行ったのが三人いるクラスらしいよ」
「三人?」
「あぁ、確か……」
どこから沸いて出てきたのか。
凄い数の観客をくぐり抜けながら私はなんとも無しに思った。
全校生徒が無秩序に動く。
これは混雑と言う名じゃ収まらない。
ライブ。
ライブだ。
桁違いなのに、そう感じた。
何万人が思い思いにステージを目指す。
見たい物を見るために。
私は今、バスケが見たい。
ピ―――――
試合開始の笛が体育館中に響いた。
ダン。
ジャンプボール。
取ったのは雅樹だ。
速攻でフォームを崩さず駆けていく。
ゴール下に控えた奈々宮が腰を低くして両手を広げた。
だが、雅樹は音を上げて立ち止まりボールを静かに持ち上げた。
「あいつ……シュートするぜ」
隣の男子が呟いた。
逞しい肘が沈んでから跳ね上がる。
ボールを送り出すと、誰もがそれを目で追いかけた。
入るか。