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悪戯な思春期
第5章 キャストの揃ったお城
「走れ走れ!」
「西に渡すんじゃねーぞ!」
白熱してきた。
私は荒ぶる心臓を諫めながら嵐のような試合を見守る。
奈々宮の指示の元、相手のガードが完全に整った。
雅樹も気だるそうにフィールドを移動する。
歓声が上がる。
喚声が応える。
開始二分で既に会場は燃え上がっている。
しかし、これからが本番だ。
そう、誰もが感じていた矢先、ボールが白く細い手に渡った。
「千晴!! 任せた!」
瓜宮だ。
全員の視線が彼に向かう。
始めはダムダム音を立ててドリブルしていた瓜宮は、囲まれた途端に動いた。
それまでの静けさが嘘のように。
前に出していた右足をがくりと曲げたかと思うと、相手の間にボールを低く送り出した。
振り向いてボールを追う彼らの腰元をくぐり抜け、自由にバウンドしていたそれを手に収める。
呆気に取られるディフェンス達を横目にそのままゴール下まで駆け抜けて、ランニングシュートを見事決めた。
まるでゴールの縁をなぞるように穴に落ちた球が、焦らすように地に落ちる。
数秒会場が静まり返った。
笛が鳴る。
そしてチーム全員が瓜宮の元に走ってゆき賞賛した。
「やっぱり……」
「すげー」
「このクラス優勝するんじゃね」
するよ。
するもん。
私は唇だけで呟いた。
だって、雅樹がいるんだよ。
ぎこちなく笑う瓜宮の肩を雅樹が一瞬触れた。軽く叩くような短さ。
その優しい雅樹の目が、笛の音を聞いて緩慢な動きでボールを持った相手を睨む。
こちらのチームが準備をしていない内に攻め始めた相手を。
瓜宮も事態に気づいて仲間を促す。
その様子は陰の指揮官みたいだ。
圧倒的な身長差の小柄なその選手は、追ってくる雅樹から必死で逃げる。
すぐに前に回り込まれ、パスしようか判断する迷いを衝かれて奪われた。
この数分で新たなファンを得た雅樹に割れるような歓声が降り注ぐ。
私も喉を鞭打ち叫んだ。
言葉じゃない。
感情の声。
「ハァ……ッアッ」
息切れする相手を見下すように雅樹はロングパスで仲間に回した。
「見え見えなんだよ、わかる?」
悔しげな視線を置き去りにして、彼はゴール下に向かった。
「やべ……16対4で二セット目か」
私はニヤニヤが止まらなかった。
ただ一つ気になるのは、奈々宮会長の顔が凍ってること。