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悪戯な思春期
第5章 キャストの揃ったお城
「おー、盛り上がってる。盛り上がってる」
聞き覚えある声が後ろからする。
「あ、笹川。お疲れさま?」
汗を拭きながら笹川が笑った。
右手でVを作る。
「勝ちましたぁ」
「おめでとう!」
「先輩は羽矢にゃんに負けたみたいですね」
「うっさいなぁ……強いよ羽矢は」
隣に陣取ると、彼も試合に目を奪われ始めた。
視線は会長を追っている。
「会長、多分勝てないよ。うちのクラス最強だもん」
得意げに言った私をちらりと見て、笹川は首を振る。
「天草先輩は知らないんすか?……会長ヤバいですよ。今のところ、本気なんか出しちゃいませんからね」
「え?」
急いで試合に目を向ける。
キュウッと喉が締め付けられる緊張。
ボールは、こちらのゴールに向かっていた。
瑠衣はこういった。
「これが三対三なら、どっちが勝ってたかわかりませんね」
「なんでや」
息も絶え絶えの司会者が尋ねると、彼はボールを片手でボールを投げた。
床に弾かれた球は、計算通りなのか、プロデューサーの元に落ちる。
突然のパスに、プロデューサーは球を受け取ることさえ出来なかった。
「すみません……まぁ、こういうことなんです」
「なにがや」
「僕がいくら完璧なパスやシュートをしたところで、チームメイトが息を揃えなかったら、勝利はあり得ませんから」
それは、こういうことなんですか。
私は点数表を見て呟いた。
Bチームと交代してから、敵の追い上げが始まった。
確かに実力差は無くなったが、場内に響くのは奈々宮会長の指示。
的確な指示。
それに忠実に耳を傾ける彼らは、滑らかにボールをシュートまで導いた。
点差は二点にまで縮んだ。
「さあて、どっちが勝ちますかね」
笹川の声色が、変わった気がした。
休憩が三分挟まり、代表者戦が続く。
向こうは会長を含み、Bチームで固めてきた。
こちらはほぼ全員がAチームのまま。
つまり、戦術が知られた強敵が相手ということ。
胸が痛くなる私を、雅樹が見つけて手を振った。
周囲の女子が勘違いして盛り上がる声も、私の耳には届かない。
無音の中で、雅樹は一瞬ウィンクをして微笑んだ。
それは、瑠衣スマイルとは似つかぬ笑み。
雅樹の笑み。
「ガンバレぇえ!」
もう私には、叫ぶしか出来ないよ。
あんな素敵な笑顔を魅せられたら。