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悪戯な思春期
第5章 キャストの揃ったお城
にゃあにゃあ云いながら笹川を追い立てている羽矢を見る。
あの姿を見れば不安だが、羽矢の二面性は凄まじい。
職員室に入った途端、大和撫子のように気品に満ちた仕草をするのだ。
「一人で大丈夫だと思いますケド」
「念のためだ」
「まぁ、はい」
奈々宮が荷物を抱えて歩き出す。
「じゃあ、放課後の会議は遅れるなよ。椎名」
「はいはーい」
ガチャン。
広い体育館に、私一人になった。
(なぜ、羽矢いない)
(笹川についていってたな)
(馬鹿なの、あのこ)
ガラッ。
(え?)
手前の扉が開く。
夕日が差して、顔が見えないが、人影だけはわかる。
誰だろう。
シルエットからして生徒会メンバーではない。
「部活はもう少し待っててもらっていいですか」
「"椎名"?」
太陽が雲に隠れる。
私はサァッと血の気が引いた。
なぜか。
「会長はいつから椎名って呼んでんの?」
「う……えと」
「ねぇ、椎名?」
雅樹が、余りに完璧に微笑んでいたから。
これは、あれだ。
アンコールで出て来た瑠衣様の顔。
喰われそうな、獰猛さ。
なのに、落ち着いた空気。
こわい。
超絶マッハで怖すぎる。
私は手にしていたパンフレットをそっと机に置いた。
パサリ、その音が心臓に響く。
応えるように心臓は早鐘を打つ。
タン。
タン。
雅樹の上履きが静かに音を立てて近寄ってくる。
「質問してるんだけど」
目の前にくると、クラクラした。
制服に着替えた雅樹は、私の頭をポンと撫でた。
優しいのに。
「椎名?」
声だけが怖い。
「で、お仕置きプレイされたの?」
「美伊奈ぁああああああっっ!」
私の鞄アタックをスルリとかわして美伊奈は笑う。
顔が熱い。
例の如く、今は帰り道だ。
私は周りの通行人を気にして手を下ろした。
「だってそれしかないじゃん。やぁだ、椎名ったら不埒ー」
「バカにしてるでしょ」
「学校でするなんて不埒ー」
ぐっと口をつぐむ。
それを美伊奈が見逃さないはずがなかった。
大袈裟に口に手を当てて言う。
「キャッ! 冗談で云ったのに、椎名ったら学校でもうやったの? やだ、ありえなーい。純白だった椎名を返して」
「声が大きいっ、バカ!」
否定は出来ない。
(くそぅ……)
(ま、事実だからね)